名探偵ストンとわたしの共同事務所

調子はずれで個人的な雑談を繰り広げます。正直いって、ぼくは頭がオカシイです。テーマは、読書や映画、アニメ、日々の出来事、つまらない小ネタが中心でくだらない(笑)。寛容の心で読み流していただけたら幸いです。    <注>コメントや質問は大歓迎ですが、念のため承認制にしてあります。

イタリアのある家族の物語

 いいものを見たなあ~というあの感じ、静かな感動、背筋がすこしピンとなり胸が火照る。久しぶりにしじみの味噌汁を飲むよう。これがあるから読書はやめられない、映画やドラマもまた然り。これはイタリアが生んだ家族の物語。
 

 イタリア文学ってあまり馴染みがないと思いません?ヨーロッパのおもだった国のなかでは、作家名や作品名が出てこない方ではないかしら。たとえば作家名、ダンテ、ボッカッチョ、ウンベルト・エーコアントニオ・タブッキイタロ・カルヴィーノ、あっマンゾーニを忘れていた。そして戯曲ではピランデッロの名を耳にするくらい、もちろん読んだことはない。これでは山手線ゲームはできないよ。
 

 どうしてなんでしょう?その理由のひとつに、すぐれた紹介者の不在があると思う。なぜなら外国文学の作品は、翻訳で読むわたしたちにとって、原作者とおなじくらい訳者が成功の鍵をにぎるからだ。それは須賀敦子さんが証明している。『ある家族の会話』を訳したのち、須賀さんはみずから小説をつくるようになった。ナタリア・ギンズブルグに魅せられ、彼女に学んだのである。
 

 こういう巡り合わせが自国の文学をゆたかにする。翻訳文化に感謝して、この『ある家族の会話』を存分に楽しんでほしい。とくに、プルーストの大長篇に挫折してしまう人におすすめ。著者のナタリア・ギンズブルグは、たくさんいるプルーストの弟子の一人だし、この小説はそれほど長くないから。ちなみに、『チーズとうじ虫』で名を馳せた歴史家カルロ・ギンズブルグは彼女の子息である。

 

ある家族の会話 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

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白米禁止令

 みなさん料理はお好きですか? 
 

 ぼくはけっこう好きですよ。週に何回かは作ることになっているし、だいたい、買物はわたしの担当だ。財務大臣から農水大臣まで兼務する家内から、いろいろなお達しがでる。たとえば、野菜は生産者の名前がレシートに刻まれるものか、愛くるしいくまモンがプリントされたもの、または生産地が具体的に示されたものをなるべく買う。こういうことにはとてもうるさい。もちろん健康食を推奨する政策も実施している。ある日とつぜん、

 

「家(うち)では白米はやめることにしました。玄米か五穀米、十穀米にします。できるだけ」と、有無を言わさぬ語気で言ってきたので、

 

「そうだな、今どき白米を食べるのは、力士か高校球児くらいだよ、うん」

と、心で泣いて顔で笑った。十穀米でも二十穀米でも勝手にしやがれ

 

 この辺りで小説の方に戻りましょうか、いや、小説の話なんか最初からしてなかったか。著者はハリー・クレッシング。誰だあ? 聞いたことがないぞ、と思うでしょ。高名な作家のアナザーペンネームらしい(こんな言葉あるのかな?)、ロアルド・ダールがもっとも有力とか何とか。
 物語の骨格は単純です。料理で人を支配する料理人の幸福な破滅を、作者一流のブラックユーモアで描いた佳作。食べ物には、いい意味でもわるい意味でも人をコントロールする力があって、美食という魔物に取り憑かれた爺さんもいれば、映画『バベットの晩餐会』のバベットのように、神聖な食の快楽を提供するコックもいる。この映画見た方がいいですよ、とってもいい気持になりました。

 えーと、そろそろランチの時間ですね。よっしゃー、白米をたらふく食うぞォー。

 

料理人 (ハヤカワ文庫 NV 11)

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バベットの晩餐会 HDニューマスター  [DVD]

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棚から牡丹餅ってあるのかな?

 「おめでとうございます! あなたは○万人目のお客様です。その記念として世界一周旅行をプレゼントさせて頂きます」

 こんな棚からぼた餅を期待しなくなったのは、いつからなのだろう? このごろ、人生があまり面白くない。いや、この現象は、一年に四度、三か月続けて起きる。大学二年次からなので、かれこれ20年以上もだ。殊に、一人で家にいるときが辛いですね。喫煙よりも孤独の方が体に良くないと、仕事場の若い女の子から教わったけれど、どうも本当かもしれない。ショーペンハウエル先生、孤独は大変です!
 憂さを晴らすため、『本日、サービスデー』を読み返してみた。著者は朱川湊人さん。朱川さんの『いっぺんさん』に泣かされて以来、私はこの人のファンである。なんか胸にジーンと来るんですもの。それに、ホラー系の話も書くところがいい。直木賞をもらった『花まんま』もすこぶる面白い。
 

 私には珍しく、この辺であらすじを紹介しましょうか。
 

〈主人公は鶴ヶ崎雄一郎。商社勤めの平凡なサラリーマン。家のローンと家族の為に働く変哲もない日々に気落ちしていると、突然会社の上司から退社勧告を受ける。もちろん、家に帰ってもそのことを妻には言えない。とりあえず気分転換に趣味の映画(『俺たちに明日はない』)を見ながら夕食を食べる。すると、
「いい? 鶴ヶ崎さん、今日はサービスデーなんだからね。人生の大チャンスよ。これを逃したら、絶対後悔するわよん」
と謎の女が顔を出した。
 翌日、何もかもが普段とはちがう。朝ご飯に食べる駅そばでは、頼んでもいない豪勢な品物が来るし、昨日説教した職場の部下が、心底反省してやる気を出している。フシギと自分の思い通りに事が進んでいくことに驚いていると、昨日、自分にリストラを告げた上司が、飛行機で九州支社へ向かうことを耳にする。
(飛行機、落ちてしまえばいいのに)
そう鶴ヶ崎が思ったせいなのか、本当に飛行機が墜落してしまって……〉

 ぼくはサービスデーがあるなら、中村ゆりさんと神社巡りしたいなあ、と思っていると、ノートパソコンの画面に、
「おめでとうございます! GoogleChromeのアンケートにお答えして頂くと、以下の商品をプレゼントします」
一瞬嬉しかったが、怪しいと思ってググってみると、新手のフィッシング詐欺だと分かった。
 クックック、これだから人生は生きるに値する。

 

本日、サービスデー (光文社文庫)

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わたしを ’’暢気者’’ 呼ばわりしないで!

「○○さん(or君)は暢気な人ですね」とよく言われる。自分でも心当たりはあるけれど、正直にいって、あまりいい気持はしない。お腹のなかでは、これでもスポーツマンだったんだぞ、と抗議しているが、どうやら俊敏性に問題があるのではなく、何かゆったりとした空気があって、いつ動きはじめるか分からないと言うのだ。
 

 そういえばわたしはあまり雑用をしない。石川淳が先輩や後輩たちと酒の席を囲むとき、あまりにも何もしないので、「君、すこしは準備や用意をしろよ」と先輩が注意した。すると石川は、「そんなことしたら、人から使われる人間になる」と澄ました顔で応じたらしい。『暢気眼鏡』を読んでいたとき、わたしと尾崎一雄はこの逸話が他人事ではなかった。もちろん、どちらか一方は、気の利かない人間ではないと思うけれども。
 

 それからというもの、飲み食いの場に行く前に、「雑用、雑用」と自分に念じる。ところが、座る場所を指定され、最初の一杯を頂くと、これもアルコールのせいかしら、飲んでばかりでお開きだ。どういう訳か、尾崎一雄とわたしは暢気眼鏡が手放せないらしい。

 

暢気眼鏡・虫のいろいろ―他十三篇 (岩波文庫)

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