わたしを ’’暢気者’’ 呼ばわりしないで!
「○○さん(or君)は暢気な人ですね」とよく言われる。自分でも心当たりはあるけれど、正直にいって、あまりいい気持はしない。お腹のなかでは、これでもスポーツマンだったんだぞ、と抗議しているが、どうやら俊敏性に問題があるのではなく、何かゆったりとした空気があって、いつ動きはじめるか分からないと言うのだ。
そういえばわたしはあまり雑用をしない。石川淳が先輩や後輩たちと酒の席を囲むとき、あまりにも何もしないので、「君、すこしは準備や用意をしろよ」と先輩が注意した。すると石川は、「そんなことしたら、人から使われる人間になる」と澄ました顔で応じたらしい。『暢気眼鏡』を読んでいたとき、わたしと尾崎一雄はこの逸話が他人事ではなかった。もちろん、どちらか一方は、気の利かない人間ではないと思うけれども。
それからというもの、飲み食いの場に行く前に、「雑用、雑用」と自分に念じる。ところが、座る場所を指定され、最初の一杯を頂くと、これもアルコールのせいかしら、飲んでばかりでお開きだ。どういう訳か、尾崎一雄とわたしは暢気眼鏡が手放せないらしい。