白米禁止令
みなさん料理はお好きですか?
ぼくはけっこう好きですよ。週に何回かは作ることになっているし、だいたい、買物はわたしの担当だ。財務大臣から農水大臣まで兼務する家内から、いろいろなお達しがでる。たとえば、野菜は生産者の名前がレシートに刻まれるものか、愛くるしいくまモンがプリントされたもの、または生産地が具体的に示されたものをなるべく買う。こういうことにはとてもうるさい。もちろん健康食を推奨する政策も実施している。ある日とつぜん、
「家(うち)では白米はやめることにしました。玄米か五穀米、十穀米にします。できるだけ」と、有無を言わさぬ語気で言ってきたので、
「そうだな、今どき白米を食べるのは、力士か高校球児くらいだよ、うん」
と、心で泣いて顔で笑った。十穀米でも二十穀米でも勝手にしやがれ。
この辺りで小説の方に戻りましょうか、いや、小説の話なんか最初からしてなかったか。著者はハリー・クレッシング。誰だあ? 聞いたことがないぞ、と思うでしょ。高名な作家のアナザーペンネームらしい(こんな言葉あるのかな?)、ロアルド・ダールがもっとも有力とか何とか。
物語の骨格は単純です。料理で人を支配する料理人の幸福な破滅を、作者一流のブラックユーモアで描いた佳作。食べ物には、いい意味でもわるい意味でも人をコントロールする力があって、美食という魔物に取り憑かれた爺さんもいれば、映画『バベットの晩餐会』のバベットのように、神聖な食の快楽を提供するコックもいる。この映画見た方がいいですよ、とってもいい気持になりました。
えーと、そろそろランチの時間ですね。よっしゃー、白米をたらふく食うぞォー。