名探偵ストンとわたしの共同事務所

調子はずれで個人的な雑談を繰り広げます。正直いって、ぼくは頭がオカシイです。テーマは、読書や映画、アニメ、日々の出来事、つまらない小ネタが中心でくだらない(笑)。寛容の心で読み流していただけたら幸いです。    <注>コメントや質問は大歓迎ですが、念のため承認制にしてあります。

タブッキと堀江さん

 二、三年まえの雑誌『ユリイカ』に、わたしをウキウキさせる特集があった。アントニオ・タブッキの特集である。殊に、作家の堀江敏幸さんと、タブッキの翻訳も手掛ける和田忠彦さんの対談がおもしろく、それを読むあいだに多くの記憶が甦ってきた。
 わたしが最初に読んだ堀江作品は『熊の敷石』で、堀江さんはこの作品で芥川賞を受賞した。『熊の敷石』を読んでいるとき、わたしはタブッキの匂いを感じていた。もちろん、堀江さんは、わたしが名も知らぬフランスの小説を多く読んでいるはずなので、堀江さんとタブッキを結びつけることは性急にすぎた。しかし、この『インド夜想曲』と『熊の敷石』はじつに通い合うものがあるのだ。その謎がこの対談ですこし明らかになった。
 

 タブッキを読むとき、いや大抵の小説を読むときにいえることだが、あまり初読をあてにしてはいけない。たぶんナボコフの言葉にこんなのがあった。
 「小説を読むことはできない。小説は再読されるものだ」
初読ではどうしても筋を追う読み方になるし、すぐれた小説の見るべきところは、いかんせん恥ずかしがり屋で、それを味わうためには再読が必要なのだろう。タブッキもそれを要求する。
 

 『インド夜想曲』も初読の段階では、インドを巡る幻想めいた冒険という印象を受ける。が、筋を忘れない程度に時間をあけてまた読むと、かなり違った読書体験になると思う。用意された容器に神秘的な水が注がれるように、タブッキの世界を味わうことができる。登場人物たちのやりとりや、たくさん出てくるホテルの情景に魅了される。幸い、この小説は短い。150ページだ。気になった人は是非、タブッキの本を手に取ってほしい。

 

インド夜想曲 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

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熊の敷石 (講談社文庫)

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