名探偵ストンとわたしの共同事務所

調子はずれで個人的な雑談を繰り広げます。正直いって、ぼくは頭がオカシイです。テーマは、読書や映画、アニメ、日々の出来事、つまらない小ネタが中心でくだらない(笑)。寛容の心で読み流していただけたら幸いです。    <注>コメントや質問は大歓迎ですが、念のため承認制にしてあります。

幸福なもの忘れ

 休憩時間くらいひとりで休みたいと思っていたら、数台ある自販機のほうから落下物の音、おそらくつめた~い缶コーヒー片手に携え、いやしくもぼくの隣に先輩が座り込んできた。ちなみに、ぼくは自販機を利用することはない。うすいお茶入りの水筒を持参している。
 向こうから話しかけてきた。
「○○くん(ぼく)、ちょっとおもしろい話があるんだよ、つきあってよ」
「本当ですか? いや~、今日は泣くためのハンカチの持ち合わせはありませんよ」
「いやいや、そこまではおもしろくないかもしれない。でも、ちょっと聞いていってよ」
と、缶のプルタブに指をかけながら語りはじめた。

 その先輩の供述によると、彼の奥さんは記憶力がよく、そのうえ好奇心旺盛らしい。身のまわりの不思議なことに頭を悩ませているという。たとえば、車のヘッドライト。右ハンドルの運転席まで前方から回りこむと、助手席の側のライトのほうが、運転席側のライトよりも疑いなくあたらしく見える。これはどうもおかしい。どちらか一方がはやく劣化するなんてあるのかしら、と気になりはじめたという。ある日射しのつよい日に、運転席側のライトのほうが、心なしか日照りがひどいのを目撃して、もしかしてこれが原因かしらと思案した。しかし、まさかとすぐに考えを引っ込めたという。
 月日が風のように流れて行き、いよいよ知りたい衝動が抑えられなくなって、彼女は、主人であるその先輩にたずねた。
「車のヘッドライトがおかしいの。片方だけが古くなってるみたい。どうして?」
と奥さんから打ち明けられたとき、その先輩はひどく動揺したという。
「あの~、真実を言っても落ち込まない?」
「落ち込む? ええ大丈夫。で、原因は?」
「二、三年まえに、君はかるい交通事故をやったね。そのときに助手席のライトを交換したはずだよ」
 その言葉を耳にすると、かつて少女のころに隠した赤らいだ頬をしたと漏らし、その先輩は残りの缶コーヒーをぐっと飲み干した。

 

 

 

供述によるとペレイラは… (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

供述によるとペレイラは… (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

 

 

タブッキと堀江さん

 二、三年まえの雑誌『ユリイカ』に、わたしをウキウキさせる特集があった。アントニオ・タブッキの特集である。殊に、作家の堀江敏幸さんと、タブッキの翻訳も手掛ける和田忠彦さんの対談がおもしろく、それを読むあいだに多くの記憶が甦ってきた。
 わたしが最初に読んだ堀江作品は『熊の敷石』で、堀江さんはこの作品で芥川賞を受賞した。『熊の敷石』を読んでいるとき、わたしはタブッキの匂いを感じていた。もちろん、堀江さんは、わたしが名も知らぬフランスの小説を多く読んでいるはずなので、堀江さんとタブッキを結びつけることは性急にすぎた。しかし、この『インド夜想曲』と『熊の敷石』はじつに通い合うものがあるのだ。その謎がこの対談ですこし明らかになった。
 

 タブッキを読むとき、いや大抵の小説を読むときにいえることだが、あまり初読をあてにしてはいけない。たぶんナボコフの言葉にこんなのがあった。
 「小説を読むことはできない。小説は再読されるものだ」
初読ではどうしても筋を追う読み方になるし、すぐれた小説の見るべきところは、いかんせん恥ずかしがり屋で、それを味わうためには再読が必要なのだろう。タブッキもそれを要求する。
 

 『インド夜想曲』も初読の段階では、インドを巡る幻想めいた冒険という印象を受ける。が、筋を忘れない程度に時間をあけてまた読むと、かなり違った読書体験になると思う。用意された容器に神秘的な水が注がれるように、タブッキの世界を味わうことができる。登場人物たちのやりとりや、たくさん出てくるホテルの情景に魅了される。幸い、この小説は短い。150ページだ。気になった人は是非、タブッキの本を手に取ってほしい。

 

インド夜想曲 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

インド夜想曲 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

 

 

 

熊の敷石 (講談社文庫)

熊の敷石 (講談社文庫)

 

 

大阪の暮らしの匂い

 もう一度人生があるなら関西弁の女性がいいです。これは絶対です。できれば神社の娘がよくて、狐顔で涼しい感じ。髪は黒色。年は四つか五つ上でわりと気の強い性格。思いっきりがよくて、後ろから色白の腕でぼくの首を覆うように……

 ブログを読むみなさん「はあ? 二度目なんだよ、このバカヤロー バキッ!!( -_-)=○☆)>_<)アウッ! ←ぼく」

 サーセン。ぐだぐだ弁解するまえにあらすじを(「夫婦善哉」のあらすじです。この本には全部で六つの短篇が入っています)


〈天ぷら屋の娘の蝶子がこの小説のヒロイン。蝶子の父親が営むお店は、具が大きくて、それで味もいいくせに利益がでない。借金取りが出入りするほどやり繰りに困っている。蝶子は子供ながらにして気づいたが、彼女の父親は経理を知らない人で、主な材料費以外の醤油や炭の費用を無視して帳簿を付けていた。これでは商売にならない。
 蝶子は女中奉公を経て、17歳のとき芸者の道を選ぶ。これは家計を助けるためではなく、あくまでも本人の意思によるもので、歌や芸などの才は乏しいものの、天性の明るさでお客をとっていく。
 
 そのなかに、現代でいうダメンズの柳吉がいた。柳吉の齢は31でとうぜん妻子持ち。病気で臥せがちの父親に代わり、理髪店向けの商品の卸しをする。けっこうなボンボンであり、世渡りが下手なタイプ。蝶子のところへ度々通って散財したあげく勘当を受け、柳吉と蝶子は駆け落ちして共に暮らしはじめる。
 
 半人前にも満たない柳吉を一人前にと、そして二人で商売をするため蝶子はヤトナ芸者(臨時雇いの芸者)をしつつお金を貯めるが、柳吉はそれを女遊びなどに使い込む始末。二人はくっついたり離れたり忙しく、蝶子の折檻にも懲りず柳吉は体たらくだが、それでも夫婦生活をつづけていって……〉

 
 罪滅ぼしにやや詳しい筋の紹介をしました。これで許してください。これを読んで思うことは、うちのカミさんが蝶子と似ているかはともかく、ぼくは柳吉タイプですね。人並みのお給金をもらうのが本当に遅かったし、憂さを晴らすためにわりと無駄使いもしていたから、若干生きていて恥ずかしく、当時のことを思い出すとホロリときます(でも女遊びはしてないよ、一応名誉のためにね 笑)。
 
 だから若いときは敬して遠ざけていたけれど、いま読むとすこぶる感慨深くて、しかしどうして柳吉は学ばないのだろうと思うし、蝶子もよく愛想を尽かさないなあ~とも思う。それでもこの二人の仲を裂きたいと読み手に思わせない何かがあって、それがまさに夫婦当人たちにしか分かりえぬ、いや、当人たちも時に見失う男女の機微なのだ。この機微と織田作之助一流の大阪の暮らしの匂い、この二つを存分に味わってほしい。
 結びに代えて余談になるが、森見さんの小説に(「夜は短し~」だったかしら)、織田作之助の全集を読む、すごく感じのいいおばあさんがいたことを思い出し、もしや、彼女も「夫婦善哉」を……と心のうちで訝った。

 

夫婦善哉 (新潮文庫)

夫婦善哉 (新潮文庫)

 

 

 

 

 

 

言い寄られたい

 もう一度人生があるなら関西弁の女性がいいです。これは絶対です。できれば神社の娘がよくて、狐顔で涼しい感じ。髪は黒色。年は四つか五つ上でわりと気の強い性格。思いっきりがよくて、後ろから色白の腕でぼくの首を覆うようにギュッとしてくれる人がいいで……

 ブログを読むみなさん「目を覚ましやがれ、このバカヤロー o(`ε´)=====〇 バキッ!! ☆))XoX ) ←ぼく」

 
 サーセン。ぐだぐだ駄弁るまえにあらすじを。


〈物語のヒロインの乃里子はデザイナー。年齢は31でまだ未婚。友だちの美々が男に振られ、乃里子はその別れ話に同席することを頼まれる。女二人は別れるならお金を寄こせと交渉して(子供ができたと偽って脅した)、男は仕方なくそれに応じる。男にも同席者がいて、彼(剛)が乃里子に渡す運びとなった。
 剛は乃里子のことを見染めており、乃里子もまんざらでもなかったので、すぐに男女の仲になる。しかし剛はお金持ちのボンボンで、周囲の女にはみな手を付けるほどのプレイボーイだった。
 それでも乃里子は剛を嫌いにはなれず、彼の別荘に遊びに行ったりする。しかも隣の別荘の主人で妻子持ちの水野にも惹かれ、彼とも体を重ねる関係になる。成熟した大人の男である水野との行為は、まだ青臭いともいえる剛のそれとは違い、乃里子ははじめて女の悦楽を知ったのだ。
 ところが、乃里子には心に秘めた男(五郎)がいて、じつは五郎から言い寄られるのを待っていた。が、五郎はどういうわけか乃里子には冷淡で、彼女の部屋にあがり、乃里子がいくらアピールしても終電があるから帰るとかいう始末。
 話はかわり、なんと美々は妊娠していた。もらったお金は返して子供を産むと言い張る美々に呆れる乃里子。子供の戸籍の都合を考え、五郎の提案で美々と五郎が形だけ籍を入れることになって……〉

 
 恋愛小説でけっこうベッドシーンが多いです。ぼくは図書館で本を借りるとき、たまにエッチな小説を一冊紛れ込ますんですね。ちょっとまえには『透光の樹』を借りました。そして今回この『言い寄る』。うーん、恋愛小説としての出来はよく分かりませんが、正直いってこの乃里子は苦手……といいたいところだけど、五郎に向かって、

「五郎ちゃんならヒモにしてあげるわよ」

と言うシーンがあって、情けない話だけど、それならよろしくお願いしまーす(笑)。

 いやいや、一応は働きますよ。やっぱり社会と接点をもつ必要はあるから。しかしね~、こんなに簡単に体を許すものなんですか?乃里子をみていると感覚がちょっと麻痺します。ぼくでも攻略できるかもって思う。
 
 ブログを読むみなさん「調子に乗るな~ o(`ε´)=====〇 バキッ!! ☆))XoX)」

 ぼくが女性の習性でイヤなのは、一途な人がいいという思いと、女馴れした大人の男に惹かれる気持ち、この二つをジャンケンのように使い分けることなんです。とにかくウソをつかれるのがイヤ。浮気するなら車のガソリンを入れに行くように事前に通達を。そして、できるかぎり自宅で給油してください(笑)。

 

言い寄る (講談社文庫)

言い寄る (講談社文庫)